2005/03/31

第2回 障害とは

 障害ってなんだろう? 「そんなこと考えたことないよ。障害は障害だ。身体のどこかが動かなかったりすることだろう。」というのが多くの人の答でしょう。そう、それで間違ってはいません。でもただそれだけではちょっと足りません。社会制度の不備、偏見など、障害のある人が抱えているいろいろな問題を解決したり、新しい支援技術を開発したりするためには、障害があることによって何が起こるのか、なぜそうなるのか、などを考えることが必要だからです。
 世界保健機構(WHO)という組織が国連にあります。ここで、障害とその影響についてとても分かりやすい説明を作りました。それは、1.何かの原因があって、身体の機能が壊れる、異常になる(機能障害、機能低下)、2.そのことによってできなくなってしまうことがある(能力障害、能力低下)、3.その結果いろいろ不利なことが起こる(ハンディキャップ、社会的不利)、というものです。当たり前のことを言っているようですが、こういう整理をしたことで、関連するいろいろなことをうまく整理したり、表したりできるようになりました。しかしこの説明にはちょっと問題がありました。それは障害のある人一人一人の状況や周りの影響があまり考慮されていないこと、表現がいささかマイナスなイメージだということです。そこで、WHOではこれを作り直して、現在は、機能障害を「身体」の状況、能力障害を「活動」の状況、ハンディキャップを「参加」の状況、というように、前向きの言い方に変え、その背後には、個人の状況、周囲の状況の影響がある、ということもはっきり表現するものにしました。
 例を挙げてみましょう。何らかの原因で「身体の状況」が変わった(たとえば事故で右手が動かなくなった)、もともと右利きだった(個人の状況)ので字がうまく書けなくなった、パソコンも勉強してなかった(個人の状況)のでワープロも使えない。だから会社で書類が書けなくなった(「活動」ができなくなった)。会社ではそんな社員は役に立たないから(周囲の無理解)、もう大きな仕事は与えられないといわれた(「参加」ができない、出世に不利(ハンディキャップ)になってしまった)、という具合です。つまり、「参加」ができない、ハンディキャップができる、というのは、周囲の無理解などから起こることであって、障害があるということがすぐハンディキャップがあるということにはつながるものではないのです。だから、障害のある人のことをハンディキャップの人、といったり、ハンディキャップ用駐車場というのは間違いであることが分かります。
 ちょっと難しい話になりますが、日本には障害者基本法という法律があります。その第二条に「障害者とは、身体障害、知的障害または精神障害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるものをいう。」と書かれています。ここでも、障害があるというだけでは障害者とは言わないことが分かりますね。
 ところで、ここでは障害者という言葉が使われていますが、私はこの言葉が嫌いです。害という字がいやだし、加害者、被害者などと同じような印象があるからです。また、者としてしまうと、その人のすべてが障害であるような印象を受けます。同じ考えを持っている人も多く、いろいろ別の言葉を考えようとしているのですが、なかなか良いものがありません(アメリカでも良い言葉がないので困っています)。障がい者、とひらがなにしたり、障碍者というように別の漢字を使う案もありますが、どれもいま一つです。仕方がないので私は「障害のある人」という言葉を使っています。最近は新聞やテレビでもこういう言いかたをすることが増えてきました。「障害を持つ人」と言わないのは、障害は好んで持つものではないからです。そんなに言葉にこだわることはないんじゃないか、と言う人もいますが、私は言葉と言うものはとても大切だと思っています。皆さんも良い言い方を考えていただけませんか。

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