2005/03/29

第4回 バリアフリーの技術2

 前回はバリアフリーの技術の最先端の一つ、音声認識についてお話しました。今回はまたちょっと変わった技術、頭を使ったパソコン操作のお話です。といってもパソコンを操作するのに、頭で考えたらそのまま動く、テレパシーで動かす、という夢のような話ではありません。頭でキーボードを打つ、という話でもありません。
 脳波というのをご存知でしょうか。皆さん自分では気がつかないでしょうが、生きている動物の頭の中では常に電気が発生しています。といってもビリビリと感電するほどのものではなく、ごくごく弱い電気だから大丈夫です。これを頭の皮の上から計るといくつかの決まった波の形になるので脳波といいます。たとえばリラックスしているときの脳波と、何かを一所懸命考えているときの脳波は違います。そこで、これを使い分けられれば、「スイッチを押した」「押さない」の状態を作ることができ、呼気スイッチなどの代わりに使ってパソコンの操作ができます。またこれで、「はい」「いいえ」の気持ちを表すのに使うこともできます。重度のALS(筋萎縮性側索硬化症)や筋ジストロフィーなどの病気で身体がほとんど動かず、声もうまく出せないような人も、「おなかすいた?」「お茶飲みたいですか?」などの問いかけに答えることができるわけです。それを目指して脳波を使ったスイッチの研究が続けられています。既に商品化されたものもあります(30万円もします)。私も試したことがありますが、なかなか思ったように「はい」「いいえ」が使い分けられず、難しいものでした。訓練が必要です。スピードもとても遅いものです。
 脳波のほかに、顔の表面の血の流れをスイッチに使う研究もされています。皆さんも何かを一所懸命考えたり、興奮したりすると顔が赤くなることがあるでしょう。この色を機械で計ってスイッチの代わりにします。たとえば、「はい」と言いたいときには「100引く7引く7引く7は?」などと一所懸命暗算をします。するとおでこに血が集まってくるので、スイッチ・オン、となるわけです。これも既に日本で試作品ができていますが、脳波と同じように、うまくいく場合といかない場合があり、スピードも遅いです。
 また、筋肉に流れる電流を使う方法もあります。筋肉を動かすと、ほんの少しですが、電気が流れます。これを筋電といいます(健康診断で心電図というのをとることがありますね。あれも一種の筋電を計っているのです)。これを計ればスイッチに使うことができます。
 これらの方法は、まだなかなかうまく正しく動かないし、スピードも遅く、しかも値段が高いものです。実際にたくさん使われるようになるにはまだまだ時間がかかりそうです。でも熱心に研究が進められています。どうしてこのような難しい研究が続けられているのでしょうか。それは、手や足や声が使えなくても、声が出なくても自分の気持ちを伝えられることはとても大切なことだからなのです。いつも介助してくれる人の言うまま、されるままではなくて、時間がかかっても自分の気持ちをはっきり伝えながら暮らしていくことが大切だからです。介助する人も、そうしたくてもなかなか気持ちをくみ取ることが難しかったのですが、このような技術が進歩すると、もっともっと良い介助ができるようになると期待されています。

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