2005/03/30

第3回 バリアフリーの技術1

 バリアフリーを実現するには、いろいろな技術や制度、またみんなの気持ちが必要です。ここではそのバリアフリーの技術について考えてみたいと思います。よくご存知のように、障害はさまざまです。日本では、身体障害(肢体不自由、言語・聴覚障害、視覚障害、内部障害)、知的障害、精神障害というように分けられています。全体の数としては、手帳を持っている人がおよそ570万人といわれています。手帳は持っていないけれど、高齢のためにいろいろな障害があるようになった人も含めるとその数は10倍にも20倍にもなるでしょう。そして、たとえば肢体不自由といっても人さまざま、一人として同じ状況の人はいません(これは日ごろ風の子会で活動しておられる方にはよくお分かりのことと思います。世の中には、障害のある人と接したことのない人の方が多いので、障害のある人、ない人、というようにバサっと分けて考えてしまう人が多いのは困ったものです)。ですから、バリアフリーの技術(支援技術とも言います)も、基本的には一人一人、その人に一番合ったものを使えるようにする必要があります。
 さて、一般にバリアフリーの技術は、衣食住関連(住宅設備や建物、エスカレータなどの移動環境、衣類、食生活など)、情報関連(世の中のことを知る、人と話をする、自分の気持ちを伝える、など)、障害補償関連(車椅子、白杖、義眼、収尿器、など)のように分けられます。これらについて一つ一つ説明するだけの紙面がありませんし、風の子会では実際にもう使っておられて、ご存知のものが沢山ありますので、ここでは比較的新しい技術や、最先端の技術を使ったまだ研究中のものについていくつか紹介したいと思います。最近ではたとえば、音声での機械操作(音声認識)、脳波利用、介護ロボット、高機能白杖(危険を教えてくれる盲人用の杖)、自動手話通訳などなどが挙げられます。
 まず、音声認識という技術の利用から。手や足が動かなくても、声でコンピュータや車椅子を動かすことができたらいいな。これを実現しようというのが「音声認識」という技術です。音声認識はすでに一部の分野や機械では実現されています。たとえばカーナビで行き先を教えたり、電話で飛行機の切符を買うときの自動音声システムなどがあります。これらはゆっくりと、はっきりと話してやれば結構使えます。パソコンの操作に使えるものも販売されています。音声認識を利用した重度の肢体不自由の人のためのパソコンシステムもいくつかあります。ただし、音声が使えるのはパソコンの操作の命令が主で、文字や文章の入力用となると、まだあまり実用的なものはありません。そして間違えることも多く、まだ使える範囲は限られています。また、電動車椅子を声で動かす研究も進められています。「前進」「右へ」「左へ」「止まれ」などの命令で動かすものです。しかしこれもまだまだ実際に使えるようになるには時間がかかりそうです。
 音声認識は、声の音波の形などを読みとって、機械が持っている知識(辞書といいます)と比べてみてそれが何の音かを判断します。音声認識が難しいのは、人間の声は実にさまざまで、さらに、言葉というものがさまざまだからです。声はもちろん人によって違いますし、同じ人でも風邪を引いたりすると声が変わってしまいます。これを同じように認識するのは機械にはなかなか難しいのです。人間同士なら、鼻が詰まっていて「デバ、ハヨウダラ」となってしまっても、もしお別れのときであれば、たいていはちゃんと「では、さようなら」と分かります。話の途中で「ヘークション!」とくしゃみをしても、相手はそれを無視してくれます。でも機械ではまだそこまで意味を理解して音声認識をするのは難しいのです。パソコンの操作のときにはもしかしたら「ファンクション」と間違えて何かとんでもない命令が働いてしまうかもしれません。「ヘークション! とはなんですか?」と聞いてくるかもしれません。文字の入力中だったら「百姓」と入力されてしまうかもしれません。
 まあ、パソコンの操作や文章の入力ならこの程度なのでまだいいですが、車椅子の操作となるとちょっと危険ですね。音声認識電動車椅子で一人で出かけているとき、横から自転車が急に飛び出してきた。「止まれ」といえば車椅子は停まるのだけど、びっくりして「ひゃあ」とか「うわっ」とか叫んでしまうと、車椅子はなんだか分からず、停まりません。せいぜい「ひゃあ、とはなんですか。もう一度言ってください。」と言ってくるくらいで、そんなことしているうちにぶつかってしまうでしょう。
 しかし音声認識の技術は着実に進歩しています。近い将来の実用的なバリアフリー技術のトップバッターとも言えます。
 では、次回は「脳波によるパソコン操作」について。

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